影絵手帖

月岡グリムの影絵ブログ

ヨーロッパの影絵

世界の影絵

2022.05.10更新

ヨーロッパの影絵

引用:ル・シャ・ノワールで上演された「スフィンクス」/ アメデ・ヴィニョーラ

ヨーロッパの影絵の起源

ヨーロッパの影絵は17世紀の終わりに、アジアからペルシャ、アラビア、トルコを経由してヨーロッパに伝わり、イタリアからイタリア人の影絵興行師を通じてフランス、ドイツに広がっていったと考えられている。

ヨーロッパにおける影絵の歴史はアジアと比較すると若く、1694年に南イタリアで行われた「Play in Darkness」という影絵芝居の記録が古いものとして知られている。起源については、13世紀のモンゴル帝国の拡大に伴って中国の皮影戲が伝わったという説もあるが、可能性は残されているものの明確な根拠はない。

アジアの影絵芝居との違い

ヨーロッパの影絵における特徴は、装飾性を重要視せず、材料も紙やダンボール、木、金属など、不透明なで手に入りやすいものが利用された。また、基本的にシルエットや人形の動き、ストーリーが重要視されたため、糸や針金を使った巧妙な仕組みが考案された。

こうした特徴は、動物の皮で作られて精巧な装飾が施されることが多いアジアの影絵と比較すると大きく異なっており、後々ヨーロッパの影絵がアニメの発展にも関係している。

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引用:Zinc silhouette for the Chat Noir cabaret shadow play L’Épopée (The Epic) / Caran d’Ache

フランスの影絵

フランスはドイツと並んでヨーロッパで影絵が最も発展した国の一つであり、18世紀頃に中国から伝わった影絵が起源といわれる。今でもフランスでは影絵は「Ombres Chinoises(中国の影)」と呼ばれており、皮影戲の影響の大きさを窺い知ることができる。

フランス影絵史における古い大きなイベントは、1771年に行われたフランソワ・ドミニク・セラフィンによるヴェルサイユ宮殿での影絵劇の上演である。セラフィンの影絵劇は王室に気に入られ、その後もパレ・ロワイヤルの常設劇場で影絵劇の上演を続けることになる。その活動は彼の甥などの後継者によって1870年まで続けられた。

19世紀になると、影絵はナイトクラブがたくさんあるパリ18区のモンマルトルでも人気を博した。カフェのオーナーの息子であったロドルフ・サリスは芸術家や文人が集まる文芸キャバレーをつくりたいと考え、1881年に「ル・シャ・ノワール(黒猫)」をオープンした。

1886年、ル・シャ・ノワールの二階に画家のアンリ・リヴィエール が影絵劇場を創設すると、多くの前衛的な文芸人が影絵の制作に参加した。1897年までの10年間の間に、『スフィンクス』、『聖アントワーヌの誘惑』、『星への歩み』、『叙事詩』など40本以上の影絵劇が上演されている。上演された影絵劇は動きや色彩、音声などの点において、映画の特徴を多く備えており、後に現れる映画の発展にも寄与したといわれる。

フランスは現在でも影絵劇の講演を行う劇団が複数あるほか、世界的に有名なミッシェル・オスロ監督が「プリンス&プリンセス 」「夜のとばりの物語」などの影絵アニメを劇場公開するなど、世界でも有数の影絵国家となっている。

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引用:ル・シャ・ノワールで影絵劇の上演に熱中する文芸人達 / Henri Rivière

ドイツの影絵

ドイツで影絵劇が流行ったのは、18世紀後半から19世紀初頭にかけてといわれ、感受性や主観に重きをおいたドイツ・ロマン主義と共に多くの人々に愛され、上流階級の家庭では、影絵劇を作って上演することも流行していた。
皮影戲を絶賛したゲーテのほか、ブレンターノ、アルニム、メーリケなど多くの文芸人が影絵劇のために戯曲を書き、時には自ら制作もした。

その後、2度の世界大戦や1900年頃に発明されたフィルムと急速に普及した映画に押されて影絵劇はかなり衰退したが、19世紀後半から20世紀にかけては、『アクメッド王子の冒険』、『パパゲーノ』などで世界的に有名なロッテ・ライニガー(1899-1981)、『ファウスト』『ドイツ人形劇研究所』などの実験的影絵劇を制作したオットークレイマー教授(1900-1986)などが現れ、影絵劇から影絵アニメへと現代影絵の進化過程を担った。

関連リンク:ロッテ・ライニガー|ドイツ人影絵アニメ作家


引用:Lotte Reiniger, “Die Abenteuer des Prinzen Achmed” / Primrose Productions

参考文献

schattentheater.de “The Development of the Shadow Theatre”. schattentheater.de . 2022-5-10
Bradshaw, Richard (1972). “Richard Bradshaw And His Shadow Puppets Teachers’ Notes”. 2022-5-10
岡本夢子,Le Chat Noirにおけるフュミストリーと19世紀末文学の関わり」,京都大学フランス語学フランス文学研究会、2013